ピロリ菌感染とは?
ピロリ菌は多くは幼少期に感染し、胃の中に住み着くことで胃潰瘍や十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃がんなどの病気を引き起こす原因となります。
特に、胃がんの多くはピロリ菌感染による慢性萎縮性胃炎が原因で発症します。
しかし、適切な除菌治療を受けることで、ピロリ菌を高い確率で除去することが可能です。
ピロリ菌の除菌は、胃・十二指腸潰瘍の再発防止、胃がんのリスク低減に有効です。
かつては、除菌治療の保険適用は限られていましたが、2013年からは慢性胃炎に対しても保険が適用されるようになり、より多くの人が除菌治療を受けやすくなりました。
ピロリ菌の感染率は、年齢が上がるほど高くなる傾向があります。
ピロリ菌感染は自覚症状がないことが多いため、40歳を過ぎたら、症状の有無にかかわらず、一度検査を受けてみることをおすすめします。
ピロリ菌の感染経路
ピロリ菌は、かつては汚染された水や食べ物を介して感染することが多かったのですが、衛生環境が整った現在では、その可能性は非常に低くなっています。
現在の主な感染経路は、親から子への口移しや、食器の共有などによるものと考えられています。
特に、幼少期に親などからピロリ菌が移ってしまうケースが多く、4歳以下の乳幼児期に感染するケースが大半を占めます。
大人になってからピロリ菌に感染することはまれであるため、一度検査を受けて陰性であれば、その後、新たに感染する可能性は極めて低いと考えられます。
一方、ピロリ菌に感染すると、自然に治ることはほとんどなく、放置すると胃がんのリスクが高まる可能性があります。
そのため、大人になってからピロリ菌の検査を受けて陽性だった場合は、除菌治療を受けることが推奨されます。
ピロリ菌感染の症状
ピロリ菌に感染すると、多くの人に慢性的な胃炎が起こりますが、自覚症状がないまま経過することがほとんどです。
ただし、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を発症すると、みぞおち周辺の痛みなど、典型的な症状が現れます。
また、胃がんが進行すると腹痛、早期満腹感、吐き気、体重減少、貧血などの症状が現れることがあります。
「胃の調子が悪い」と感じていても、必ずしも病気が隠れているとは限りません。
逆に、「全く症状がない」という場合でも、病気が進行している可能性もあります。
ピロリ菌は放置するとどうなる?考えられる主な病気
ピロリ菌感染は、様々な消化器疾患の原因となることが知られています。
主な病気としては、慢性胃炎(萎縮性胃炎)、胃がん、胃潰瘍・十二指腸潰瘍があります。
以下では、それぞれの病気の特徴と主な症状について解説します。
慢性胃炎(萎縮性胃炎)
ピロリ菌は、自覚症状が出にくいため、感染に気づかないまま放置してしまうケースも少なくありません。
一度感染すると、自然に治ることはほとんどなく、胃の中に住み着き続け、病気を再発させるリスクも高くなります。
ピロリ菌が住み続けることで、長期的に炎症が起こり、胃の粘膜が痩せてしまう萎縮性粘膜となります。
慢性胃炎と診断された方は、一度ピロリ菌の検査を受け、陽性であれば除菌治療を受けることをおすすめします。
胃がん
ピロリ菌感染を長期間放置すると、胃の粘膜が萎縮し、胃がんのリスクを高めることが知られています。
実際に、胃がんの多くは、ピロリ菌感染歴のある人に発生しています。
胃がんは初期の段階では自覚症状がないことが多く、進行すると、腹痛、食欲不振、吐血、黒色便、貧血などの症状が現れます。
胃がんを予防するためにも、定期的な内視鏡検査による早期発見と、ピロリ菌感染が確認された場合の除菌治療が重要です。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃潰瘍は、胃酸から胃の壁を守る胃粘液の分泌が減ったり、胃酸の分泌が多くなりすぎたりすることで、胃の粘膜が傷つけられ潰瘍ができる病気です。
ピロリ菌が原因となることが多いですが、喫煙、ストレス、薬などが原因となることもあります。
主な症状は、食中や食後のみぞおちの痛みや胸やけ、吐き気などです。胃の中で出血が起きると、黒いタール状の便が出ることもあります。
十二指腸潰瘍も、胃潰瘍と同様に粘膜が傷つき潰瘍ができる病気です。
十二指腸は胃の出口に位置し、胃酸の影響を受けやすいことから、潰瘍ができやすい部位です。
十二指腸潰瘍の主な原因はピロリ菌感染と考えられています。
主に空腹時に胃潰瘍と同様の症状がみられることに加え、出血しやすいのが特徴です。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍と診断された場合は、内視鏡による止血や、ピロリ菌の除菌治療などを行います。
ピロリ菌検査は痛い?
検査方法について
ピロリ菌の検査には、大きく分けて2つの方法があります。
胃カメラ検査を併用する方法
胃カメラ検査を行う際に、同時にピロリ菌の検査を行う方法があります。
この方法では、胃の粘膜を採取して検査を行います。
- 培養法: 採取した胃粘膜を培養し、ピロリ菌が増殖するかを確認します。
- 鏡検法: 採取した胃粘膜を顕微鏡で観察し、ピロリ菌が存在するかどうかを調べます。
- 迅速ウレアーゼ試験: ピロリ菌が持つ「ウレアーゼ」という酵素の働きを利用します。ピロリ菌が存在する場合、ウレアーゼがアンモニアを発生させるため、その有無を調べることで判定します。
これらの検査自体は痛みを伴いませんが、胃カメラ検査の実施中に感じる程度の不快感は伴う可能性があります。
胃カメラ(胃内視鏡)を
使用した検査
迅速ウレアーゼ試験
迅速ウレアーゼ試験は、ピロリ菌が持つウレアーゼという酵素の働きを利用した検査です。
胃カメラ検査の際に採取した胃の粘膜の一部を使って、ピロリ菌の有無を調べる検査です。
当日に検査結果をお伝えできるため、当院では主にこの方法を使用しております。
培養法
培養検査は、胃カメラ検査の際に採取した胃の粘膜を、特殊なプレートの上で培養しピロリ菌の有無を調べる検査です。
他の検査と比べて、結果が出るまでに時間がかかるというデメリットがありますが、除菌治療が成功したかどうかを確認する際には、最も信頼性の高い検査です。
鏡検法
鏡検法は、胃の粘膜を採取し、特殊な薬液で染色して顕微鏡でピロリ菌を探す方法です。
胃カメラ検査を併用しない方法
ピロリ菌の検査や除菌治療を保険診療で受けるには、胃カメラ検査で胃潰瘍、十二指腸潰瘍、慢性胃炎などの病気と診断される必要があります。
胃カメラ検査をせずにピロリ菌の検査を受ける場合、保険適用外となり自由診療扱いとなります。
当院では、鎮静剤の使用や、経鼻内視鏡(鼻から挿入する胃カメラ)を用いるなど、患者様の負担を軽減できるよう努めています。ご希望の方はお気軽にご相談ください。
胃カメラ(胃内視鏡)を
使用しない検査
尿素呼気試験
尿素呼気検査は、ピロリ菌が持つウレアーゼという酵素の働きを利用した検査です。
検査薬を飲む前後の呼気を採取し、その成分を分析することで、ピロリ菌の有無を調べます。
糞便中抗原測定
便中ピロリ菌抗原検査は、便の中に含まれるピロリ菌の成分を検出する検査です。
比較的簡便な検査ですが、他の検査と比べて精度が劣るというデメリットもあります。
抗体測定(血液検査)
抗体測定は、血液中にピロリ菌に対する抗体が作られているかどうかを調べる検査です。
採血だけで検査できるため、患者様の負担が少ないというメリットがあります。
ただし、過去にピロリ菌に感染したことがある場合でも、抗体が陽性として出てしまうため、現在も感染しているかどうかを正確に判断するためには、他の検査を併用する必要があります。
ピロリ菌感染の治療法
(除菌治療)
ピロリ菌の検査で陽性反応が出た場合は、除菌治療を行います。
除菌治療では、胃酸の分泌を抑える薬と2種類の抗生物質を、約1週間服用していただきます。
除菌療をきちんと行えば、80~90%の高い確率でピロリ菌を除菌することができます。
ただし、除菌治療が成功しても、それで完全に安心というわけではありません。
ピロリ菌を除菌できたとしても、胃がんになるリスクがゼロになるわけではないため、定期的に胃カメラ検査を受けるなど継続的なケアが大切です。